『アデル、ブルーは熱い色』
『アデル、ブルーは熱い色』をようやく観た。
映画史上初めて監督と主演女優2人にパルムドール賞(最高賞)が受賞されたことで
話題になっていた作品だが、
個人的には青い髪のレア・セドゥが出演することで一年ほど前から気になっていた。
青い髪という設定は原作のフランス漫画(バンドデシネ)から来ていて
そのビジュアルインパクトがなんだか日本の漫画のキャラクターに重なる気がした。

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まず上映時間が3時間と聞いてその長さに驚いた。
映画を観て、たしかに長かったが、それは悪い意味ではなく、
まるでアデルという女性の人生に何年間も入り込んだような濃密な3時間だった。

【ストーリー】
恋に不器用な高校生アデルは、道ですれ違った青い髪の女性エマに一瞬で恋に落ちる。
同性愛者が集まるバーで偶然エマと再会したアデルは、彼女との距離を徐々に縮め、
美学生エマの不思議で哲学的で奔放な世界観に魅了されていく。
そして、自分の中にある性に気づき、肉体を重ねることの歓びを知る。
数年後に幼稚園の教師になったアデルは、エマと同棲しながら彼女の絵のモデルをつとめて幸せな日々を送るが、二人の距離は徐々に離れていく。

【女性同士の激しい恋愛を描いた映画】
映画は2人の女性の恋愛を描いた単純なものだった。
ストーリーに関しては他の恋愛映画と大差はないだろう。
アデルとエマが出会って、恋に落ちて、別れていく。
運命の出会い、それが女性同士だっただけだ。
しかし他の映画と決定的に違うのは、その圧倒的な激しさと表情のリアリティだ。
お決まりの恋愛映画やコメディ映画のワンパターン的な演技は微塵もなく
そこにあるのは本物の人間が放つ生々しく観ていて痛くなるほどの欲望だ。
スクリーンを通してアデルとエマの「生きるための歓び」がこんなにも直に伝わってくるのは
数分間の長いセックス描写のためだろう。

【生々しくも美しいセックスシーン】
この映画の見どころの一つは2人が愛し合うシーンだ。
アデルとエマの女性同士のセックスシーンはリアルで激しく長く、
触れ合う二人の肌の色の違いが際立って生々しい。
しかしこれがポルノではなく映画として成立しているのは
2人がお互いを本気で求め合っているからだ。
まるで自分自身の欠けた破片を補い合うように重なり合って眠る2人の姿は美しい。
幼い顔立ちのアデルが相手に求める視線の強さは、動物的な本能を感じさせて、恋が自然なものであることを改めて教えてくれる。
対照的な2人を引き合わせる磁場というものがどこにあるのかは分からないが、
その2人が惹かれあい一緒になるところに、この映画の美しさがある。

【愛を知る歓びの先にあるもの】
しかしこの映画は愛を知った主人公の「生きる歓び」を感じると当時に、
後半で「失う悲しみ」が表現されているところにこそ魅力がある。
「愛を知る歓び」は「愛を失う悲しみ」によってこそ、より強調される。
それは誰もが経験する普遍的な出来事であり、それこそが人生そのものだ。
唐突に訪れるラストシーンに、人生をやり直そうとする主人公の強い意志を感じられた。

【主演のエマについて】
エマを演じたレア・セドゥの演技力のすごさには今回改めて驚かされた。
特にアデルをアパルトマンから追い出すときの剣幕はかなり恐ろしい。本気すぎる。
『美しい人』のときの黒髪の主人公の役が個人的には一番好きだが、今回のブルーヘアーのレア・セドゥもインパクトが大きい。彼女はアデルが一目ぼれする運命の女エマを見事に演じている。
2013年2月号のフィガロジャポンのインタビューで彼女はこう語っている。
「私が思うに、ファム・ファタルというのは強靭さを持っている女性のこと。
突き詰めれば、男性に全く依存していない、すべてのことからフリーな存在という気がする」

【主演のアデルについて】
アデル役のアデル・エグザルコプロスは初めて観たが、すごい女優だった。
パリ出身で、9歳の時から演技の勉強を始めている。
ジェーン・バーキンが監督した映画『Boxes』や『黄色い星の子供たち』に出演し、
『Les Enfants de Timpelbach』では主演を務め、フランスで有名となる。
そして今回の映画『アデル、ブルーは熱い色』に出演し、パルムドールを受賞した。
人間の歓びと悲しみを豊かな表情で生き生きと表現していて、視線の強さが印象的。
恋を知らない高校生の幼さから、全てを失い再出発する女性の強さまでを完璧に演じていた。ビーバーのような動物的可愛らしさも魅力だ。
また一番印象的だったのは、自宅でアデルが口を汚しながら思いきりボロネーゼパスタを食べているシーンだったかもしれない。セックスも食欲も同じ人間の本能。それを貪欲に描ききった監督の強い意志を感じた。

『アデル、ブルーは熱い色』は簡単に言えば女性同士の激しい恋の物語。
しかしそれはレズビアンという枠を出て、肉体を欲する人間の生そのものだ。
偶然出会い、相手に触れて、また別れていく。
そのあまりの激しさはやはりフランス映画だ。
忘れていた熱い想いを思い出させてくれる強烈な作品だった。

『アデル、ブルーは熱い色』(2013)
監督・脚本:アブデラティフ・ケシシュ
原作:ジュリー・マロ『ブルーは熱い色』
出演:アデル・エグザルコプロス、レア・セドゥ
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by kou-mikami | 2014-05-10 12:54 | パリの映画
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