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クリス・マルケル『サン・ソレイユ』
アテネフランセ文化センターでクリス・マルケルの『サン・ソレイユ』を観た。
アイスランドから始まり、東京とアフリカの日常風景を写したドキュメンタリー。
エッセイ映画の傑作とされ、80年代の日本映像としても貴重な作品だ。

なぜ数ある国の中で日本とアフリカを撮影したのか。
クリス・マルケルは映画の中でこう言っている。
「僕の絶え間ない東西往復は、この生の存続の二つの極地への旅なのだ」

つまり、生と死の壁が薄い国(アフリカと日本)への興味をそのまま写し取ったのが『サン・ソレイユ』であり、その視点ゆえに彼の目を通した映像は美しく幻想的でさえある。映画の中ではあまりにたくさんの言葉や思想が語られているので、少々疲れてしまうがそれ以上にこの映画を観る自体が刺激的な冒険となる。

クリス・マルケルは映画の中で様々な言葉を残している。

「思い出は、忘却の反語ではない。僕たちは思い出によって記憶を取り戻すのではない。歴史を書き直す様に、記憶を書き直すのだ」

「動物たちは、カーニバルで蘇ったが、新たな干ばつとともに石となってしまうだろう。それが、豊かな国が忘れてしまった生の存続状態なのだ。しかし、そのことを忘れていない例外的な国がある。そう、日本だ」

監督の提示する映像や言葉を完全に理解する事は不可能であるし、それゆえに
様々な解釈や見方ができるから何度も見れるし面白い。
一つの明確な答えを出すハリウッド映画の対極をいく作品だろう。

80年代の東京の映像を見ることへの興味は尽きない。
まさに自分が生まれた頃。なんだか懐かしく、
また遠い国の風景のように感じるのは、撮影したフランス人監督の眼で街を観ているからだろうか。監督の日本への尽きない興味を感じさせる映像とナレーション。
また『サン・ソレイユ』を観て、初めて竹の子族の映像をまともに眺めることができた。

東京の街。ビデオカメラやスマートフォンさえあれば、誰もが同じように撮ることができる。
しかし違うのは視点だ。『サン・ソレイユ』の監督クリス・マルケルの撮影した東京は、
明らかに日本を外側から撮った映像だ。異邦人の視点から撮った興味と熱意、
そして答えのない疑問。だからこそ新鮮で美しい。

今はなき改札の駅員の絶妙な切符さばき、電車内で眠る日本人の顔、猫の寺、
ゲームセンターの電子音、デパートの展覧会を覗くように観る日本人の顔。
クリス・マルケルの日本への興味がそのまま映像に投影されている。

タイトルはムソルグスキーの歌曲「日の光もなく」から。
クリス・マルケルは映画の中で彼の曲を使っている。
『サン・ソレイユ』は監督が異国について日々考えていたストーリーの細部やモチーフ、
そして好きな曲で構成されたエッセイ作品といえるだろう。

クリス・マルケルの『サン・ソレイユ』を観てイヴ・シモンの小説『すばらしい旅人』を思い出した。写真家アドリアンが始まりの地を求めてアフリカと日本を旅する物語。
どちらの作品もアフリカと日本を神秘的な「生の二極地」としてとらえているのが興味深い。

映画はラストで冒頭に出てきたアイスランドの少女の風景に戻っていく。
監督が「幸福の映像」と言った少女3人の映像は、島の妖精たちの戯れのようにも見えてくる。
この冒険の行きつく先は何なのか。日本人としてこの映画をどう観ればいいのか。
生涯を通して何度も見直したい映画の一つである。

クリス・マルケル『サン・ソレイユ』_e0141635_102238.jpg


サン・ソレイユ "Sans Soleil"
1982年 / フランス
監督:クリス・マルケル
ナレーション:池田理代子
by kou-mikami | 2015-08-17 00:22 | フランス映画
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