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ロウ・イエ『パリ、ただよう花』
ロウ・イエ監督の新作『パリ、ただよう花』を観ました。
この映画を観ようと思ったきっかけは、まずパリが舞台だということ。
そしてパリに住む中国女性が主人公だということでした。
パリでありながらフランスではない世界を見せてくれるのがパリに住む外国人の暮らし。
それはフランス人が知らない「もう一つのフランス」です。
以前パリに暮らしていたこともあり、観光大国フランスの影の部分に興味があったため
懐かしさからこの映画を観たいと思いました。

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映画は異邦人の日常生活というよりは恋愛のみを主軸に進んでいきます。
カメラは主人公の不安定な恋愛をただ執拗に映していく。
恋人に捨てられる場面から始まり、次の恋愛が始まり終わるまでを
カメラはまるで空気のように至近距離から追っていきます。
失恋の悲しみと異邦人であることの疎外感が
辛辣な彼女の顔のアップと殺伐としたパリの風景で上手く表現されています。

【ストーリー】
中国人留学生であるホア(花)は、パリでフランス人の恋人に捨てられる。
失意の中、通りを歩いている時に建設工の男マチューと偶然出会う。
粗野でせっかちな性格のマチューに半ば無理やりに関係を迫られ、
ホアはマチューと付き合うようになる。
しかしインテリを憎む肉体労働者のマチューとは喧嘩ばかり。
うまくはいかず、結局ホアは北京に戻ってかつての同棲相手と婚約し、
通訳の仕事も得て、国際的な活躍の場を与えられる。
しかしその後彼女が向かったのは、パリ郊外の貧しいマチューの故郷だった。

【都会の愛と孤独を描き続けてきたロウ・イエ】
監督は『天安門、恋人たち』(2006)のロウ・イエ。
カンヌ映画祭で上映され過激な性描写で話題になりましたが、
彼は中国当局から5年間映画制作禁止処分を受けます。
その後、同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(2010)をゲリラ撮影で制作しています。
中国・上海出身の監督は今まで一貫として描き続けてきた「都会の愛と孤独」を表現してきました。

そして撮影場所を初めて海外に移し、パリを舞台にした最新作が『パリ、ただよう花』です。
原題は『Love and Bruises』ですが、この邦題で正解です。
花は、主人公の名前でもあり、ただパリを漂っています。
パリは彼女にとって流れるための場所。故郷北京と反対にある世界です。

【理由の分からない恋愛】
知性的なホアが好きになるマチューは典型的な肉体労働者。
『預言者』、『Grand central』のタハール・ラヒムが演じています。
インテリ層にいるホアと建設工マチューとの対比が面白いです。
マチューは根は優しいけど、粗野で軽率な面があり、
賭けとして友人に彼女を売ったり、アフリカ人の妻がいることを隠しています。
またホアの友人である知識階級の中国人たちを憎み罵倒します。
普通であれば、こんな男とはすぐに別れるはずですが、
それでもホアは、マチューとの逢瀬を重ねてしまいます。
その理由が私にはよく分かりませんでしたが、
おそらくそこには心とは別に、ただ肉体を求めるしかない
ホアの悲しい欲望があったのかもしれません。

【パリの野生動物】
『パリ、ただよう花』には、本来セックスとはそういうものではないかと思わせる動物的強さがありました。
もともとセックスは食べることや寝ることと同じ人間にある欲求(本能)の一つ。
それも生きることに直結する大事な欲望です。
これがあったからこそ、人類はここまで地球上で生き延びてこられました。
他の生物にもそれは当てはまりますね。
しかし現代の都会の中でその欲望は抑制されています。
でもホアはその抑制された都市に不満をいだいて漂いながらセックスを求めている。
その姿はまるでパリを徘徊する野生動物のようでもあります。
これは本来の生物に帰ろうとする人間の物語とも言えます。

【映像について】
まるでドキュメンタリーのような映像は荒々しく生々しい。
特にホアとマチューが最初に出会った日の二人のやりとりはリアル。
夜に建設現場で無理やりホアをレイプしてしまうシーンの長回しは
その場に居合わせたかのような気まずい臨場感がありました。
ホアの顔のアップが多かったのも印象的で、監督は言葉ではなく
彼女の表情に全てを語らせたかったのかもしれません。

【彼女は人生に何を求めているのか】
彼女は寒々しいパリの中でただセックスを求めているように思えます。
相手を愛しているのでもなく、寂しいのでもなく、ただ性交を重ねる。
しかしそれはどこにも辿り着かない浮遊した空しい生活です。
恋愛に疲れた彼女はようやく北京に戻ってかつての同棲相手と婚約をしますが、
将来を決めた彼女の顔には絶望しかありません。
その表情は自由を求める野生動物としてのホアの本音を浮き彫りにします。
結婚には安定と平和があるが、そこに恋愛や刺激はない。
彼女の絶望は、彼女が安定よりも刺激を大事にしていることを物語っています。
簡単に言ってしまえば、おそらく彼女は自由を求めているのでしょう。
しかしそれはいつも悲しみに変わり、決して手に入らないのです。

生きることは、セックスそのもの。しかしそこには何もない。
どこにもたどりつかない彼女の生き方を見ているとそう思えてしまう。

『パリ、ただよう花』"Love and Bruises"(2013)
監督:ロウ・イエ
出演:コリーヌ・ヤン、タハール・ラヒム
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by kou-mikami | 2014-01-18 10:35 | パリの映画
フランソワ・トリュフォー『華氏451』
久しぶりに『華氏451』を観ました。
SF映画が好きで、よく見ていますが、
中でもフランソワ・トリュフォーのこの作品は
映像がSF的でないために、余計に心に残る不思議な作品です。
レイ・ブラッドベリの小説『華氏451度』が原作になっています。

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【この映画の背景】
本を読むことが禁止された近未来社会。
書物は発見され次第、消防士たちによって焼却処分されます。
有無を言わせないその作業は冷酷でありシステマティックです。
本来火を消すはずの消防士が、未来では本を焼く仕事に変わっている点が
ユニークで面白いです。
何故本が禁止されるのかという理由も興味深く、
それは真実ではない人間の物語は人を不幸にするため。
では小説以外の書物はよいのかというとそういうわけではないらしく、
哲学書や思想書はさらに危険な思考を人に植え付けるため
本という本は全て焼却処分の対象になっています。

本のない近未来の日常生活は味気ないものとして描かれています。
ただ大きなスクリーンでエクササイズらしき映像や政府発信のニュースを
眺めて一日を過ごしています。また頭を使う暇を与えないと考えられる
スポーツも奨励されているようです。
考えないことは幸せなことだという政府のスローガンが
国民のほとんどに浸透した全体主義の世界です。
これは1956年制作のイギリス映画『1984』にも通じる世界観です。

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【ストーリー】
消防士として日々本の焼却を行うモンターグは
本を1冊も読んだことがなく、読書は人を不幸にすると信じている。
あるとき通勤モノレールの中で近所の女性クラリスと出会い話をする。
彼女は本の素晴らしさを知っていたが、彼はそれを信じずに否定する。
ある日、ふとしたきっかけでモンターグは本を読み、その虜になる。
しかしそのことが妻や消防団にばれてしまい、逮捕を恐れて街を逃げ出し、
クラリスが教えてくれた本のユートピアを目指す。

【映画の矛盾点】
消防士の上司が作家名や小説のタイトルを口にする場面がありますが
本を嫌悪し焼くだけの仕事をしている消防士たちが
何故そこまで文学に詳しいのかが不明です。
監督としては自分の好きな小説を、会話の中に登場させたかった
のかもしれません。

また逃亡した主人公が捕まらなかったために
政府が嘘の犯人をでっちあげるシーンがありますが
犯人逮捕をせずに嘘の情報ばかりを流していたら、
政府の敵たちはどこかに集まり、レジスタントになる可能性があるのでは
ないでしょうか。全体主義国家にしては対策が甘いと感じました。

【印象に残った映像】
『華氏451』はSF映画ですが、SFらしいところはあまりありません。
しかし個人的にはそんなレトロな部分に強く惹かれます。
自然の多い田舎の町に何故かモノレールが走っていたり、
(乗客がレトロなUFOのように梯子で降りてくるシーンも面白い)
大型スクリーンが置かれた部屋の内装はシンプルで未来的ですが
東洋的なオブジェなどが置かれて少し異様な雰囲気です。
60年代の欧米の家はこんなリビングだったのでしょうか。

他に、発見した本を金網の上で焼く場面もSFとは思えないアナログさ。
あきらかに合成と思われる、警察が空を飛んで主人公を
捜索するシーンも、『マイノリティ・リポート』の原点のようで面白い。
テレビの中の人物と会話できるシステムも、まさに21世紀を先取りしていますが、
会話がほとんどかみ合わず、全体主義的な重苦しさを感じさせます。
今見ると、かなりシュールな雰囲気が映画全体に漂っていますね。
そんな映像の細かな部分を見るのも、SF映画の楽しみの一つです。

【感情が失われた社会は今の世界にも通じる】
この映画で特に印象に残ったのは、
近未来社会では皆、感情を恐れていることです。
家では部屋の中にある巨大スクリーンを見て過ごしているため
人間の感情は失われ、映像に魂が奪われているかのようです。
しかしあるとき、主人公が禁止にされている小説を妻の友人たちの前で
朗読すると、友人の一人が感動して泣きだしてしまいます。
しかしその涙を、皆怖がり本に対して恐怖を感じるのです。

それは私たちのいる社会から見たら異常であり信じられないことですが
テレビやパソコンを見る現在の日常からかけはなれているとは思えません。
むしろ、現在の社会の延長線上に『華氏451』の世界はあるのかもしれません。

「華氏451」"Fahrenheit451"
監督:フランソワ・トリュフォー
制作年:1966年
主演:オスカーウェルナー、ジュリー・クリスティ
原作:レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
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by kou-mikami | 2014-01-13 15:31 | パリの映画



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