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悲劇的な友情 アンヌ=ソフィ・ブラスム『深く息を吸って』
人は過ちを犯した時、それを告白することで楽になりたいと思う。

アンヌ=ソフィ・ブラスムの『深く息を吸って』を読んだ。
裏表紙に書かれた「第2のサガン」というキャッチコピーに惹かれて
手に取った小説だが、これはまさに孤独なパリジェンヌの
告白の書というべきものだった。

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作者のアンヌ=ソフィ・ブラスムは1984年生まれ。
フランス東部の町メッツに住み、17歳の時にこの小説でデビュー。
フランスで出版されベストセラーになったそうだ。

10代特有の純粋さと透明感を見事に描いていて、
それゆえの孤独で狂気的な世界が、自分の過去の痛みと伴って
強い共感を持つ作品だった。


【ストーリー】
19歳の少女シャルレーヌは殺人の罪で刑務所に入っている。
彼女は苦しみを吐きだすように、人を殺すに至った経緯を読者に語っていく。
まだ記憶の不確かな幼年時代から、小学生、コレージュ、リセでの
孤独な生活、初めての恋、そして殺人を犯した日の夜の闇まで。

「わたしの幼年時代はほかの子とは違っていた。浮かれ騒ぐこの世の中で、
わたしは自分だけの独自の世界しか感じ取れずにいたのだ。
おそらくこんなふうに孤独を必要としていたことや、他人に理解されずにいたことが、あるときはじめてわたしを"書く"ということにつき動かしたのだろう。」

前半はどこにでもいる内気な少女の回想録といった感じで、さほど意外性はなかった。
しかし主人公がコレージュ(中学校)でサラという女性に出会ったことで、
物語は徐々に狂気的な闇に支配されていく。
生涯の親友だと思っていたサラとのあまりに美しい思い出が綴られるが、
サラは友人のふりをしてシャルレーヌを利用していただけだった。
しかしシャルレーヌはサラの友情を盲目に信じて彼女を慕い続ける。
そして彼女の中でそれは次第に憎しみと狂気に変わっていく。

「普通の人のようにふるまおうと努力しても、自分自身の狂気からは逃げられない。
だって、狂気は何よりも強いのだから。
だから遅かれ早かれふたたび顔を出してくる。お手上げだった。
狂気を鎮めるには、真正面から向きあい、
その命令をひとつひとつ実行していくしかなかった。
結果がどうであろうと、それは問題ではなくて、
実行に移すことで、ようやく狂気から解放されるのだった」

彼女にとって殺人は実行しなければならない問題だった。
彼女の中に狂気が少しずつ生まれていく過程が緻密に描かれ、
彼女の恐ろしい計画を誰も止めることはできない。
それでも彼女の行動を何度も食い止めたいと思うほど
彼女の心の悲しみが自分のことのように伝わってくる。
10代ゆえの残酷な友人関係が起こした悲劇だが、
これは誰の心の中にもある普遍的なものなのかもしれない。


【書くことの意義】

主人公シャルレーヌの孤独で繊細な感覚がよく伝わるエピソードがある。
彼女は8歳の時に親からノートを買ってもらう。
そして彼女は今までの孤独を癒すかのように、自分の世界を
そのノートに書き込んでいく。

「書くということは喜び以上のものであり、単に必要だという以上の意味があった。そして現在もなお、わたしの真実であり、明白な現実に対する、私にとっての唯一の防衛手段なのだ。」

これはおそらく、作者アンヌ=ソフィ・ブラスムが小説家になることを決めた
理由でもあるのかもしれない。
彼女はインタビューでも主人公の一部は自分に似ていると語っている。

「Respireは自伝ではないけれど、サラとの悲劇的な友情を語るシャルレーヌと私は
どこか似たところがある」


【狂気に勝つことはできない】

『深く息を吸って』はパリに住む孤独な少女の物語。
彼女が歩む孤独の世界はつらすぎるものだけど、
初めて人を愛することの素晴らしさを知った彼女の喜びにはこちらも胸が熱くなる。

しかし彼女は自分の中にある狂気に打ち勝つことはできず、
幸せを全て捨てて恐ろしいラストへと突き進んでしまう。
しかし彼女にとってはそれがやらなければならない「正しい道」だった。
世間的に悪を働いても、彼女の世界の論理で言えば「私は勝った」となる。
それが自分の人生にとって幸せではない道だとしても。

彼女は独房を出た後、どんな人生を歩むのだろうか。
これはあまりに純粋な世界を描いた悲劇的な友情の物語だ。


アンヌ=ソフィ・ブラスム『深く息を吸って』
"Respire"(2001)
Anne-Sophie Brasme
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by kou-mikami | 2014-04-12 07:58 | パリの小説
ギヨーム・ブラック『女っ気なし』
映画『遭難者』と『女っ気なし』を観てきた。

フランスの映画監督ギヨーム・ブラック(Guillaume Brac)の劇場初公開作品。
「新しいヌーヴェル・ヴァーグ」を予感させるバカンス映画で、
久しぶりにすごい監督が出てきたと嬉しくなった。

ジャック・ロジエ監督の『オルエットの方へ』を観たときの衝撃を思い出す。
しかしこちらの映画は華やかなOLたちではなく、地味な青年が主人公。
バカンス映画だけど、映画全体に漂ううらぶれてさえない感じが、とてもいい。
孤独でせつないエリック・ロメール映画といった風情を感じさせる。

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【ストーリー】

さびれたリゾート街オルトでホテルの管理人をしているシルヴァンは
バカンスでパリから遊びに来た母娘をホテルに迎える。
天真爛漫でグラマラスな母親と読書好きの美しい娘。
恋人のいないシルヴァンは、なんとか母親の気を惹こうとするが
あと一歩のところでうまくいかない。
日々は過ぎ、そしてバカンスにも終わりがやってくる。

『女っ気なし』はダメ男好きにはたまらない映画だろう。
アメリカ映画ではポール・ジアマッティ主演の『サイドウェイ』を思い出すが、
このフランス映画はさらにリアリティを持って観客の前に提示される。
そして、それは自分自身の心の中にあるダメさの反映となって共鳴する。
またこの映画には美しい映像が全く出てこない。それなのに切なく美しい。
これはまさにヌーヴェル・ヴァーグを継承する監督の才能だろう。

【俳優ヴァンサン・マケーニュ】

今回の収穫は映画だけでなく、その主演俳優だった。
両方の映画に出演していたヴァンサン・マケーニュ(Vincent Macaigne)の
シャイなダメ男ぶりが文句無しに素晴らしい。
一目見て好きになった俳優だ。
もともとは舞台演出や監督の仕事がメインのようだが、
今回友人であるギヨーム・ブラックに頼まれて出演したということだった。

フランス人らしからぬシャイでさえないダメ男を演じたヴァンサン・マケーニュは愛らしく憎めない。
本当に素晴らしい俳優はスクリーンの中で主張せず、
どこにでもいそうな人間としてまるで空気のように溶け込んでいる。
そしてその場にカメラがあることを全く忘れさせてくれる。
ヴァンサン・マケーニュはまさにそんな俳優だ。
彼のような俳優は、ロメール映画にあるようなバカンスで起こる何気ない展開にとても合っている。
そして青年特有の暗い世界を予感させるのも、この映画の魅力の一つとなっている。

【『女っ気なし』のプロローグとなった『遭難者』】

もう一つの映画『遭難者』は『女っ気なし』のプロローグとなる短編だった。
とくに物語が続いているわけではないが、
舞台が同じうらぶれたリゾートの町で、出てくる青年シルヴァンも一緒だ。
パリからこの町に自転車でやってきたサイクリストに一晩の宿を
貸すシルヴァンだが、彼の恋を助けようと余計なおせっかいをしたばっかりに
男の怒りを買ってしまう。
軽やかでユーモアがあって、そして悲しい余韻を残すこの作品は
次に続くバカンス映画の裏話といった役割にもなっている。

【ヌーヴェルヴァーグの精神を引き継ぐ新たなバカンス映画】

『女っ気なし』は『夏物語』と『オルエットの方へ』に次ぐ素晴らしいバカンス映画。
ラストに訪れるバカンスの終わりの開放された雰囲気もいい。
リアリティあふれる色彩とカメラワークはジャック・ロジエ監督の映画に通じるけど、
なにもかもさえない感じがこの映画の特徴でもある。
天気の悪いうらぶれたリゾート街を舞台に、
独り身の青年のなかなか実らない恋をユーモアを交えて描く。
ギヨーム・ブラックの『女っ気なし』はまさに、
あのヌーヴェル・ヴァーグの精神が今も続いていることを教えてくれた。
今年最も印象に残る映画になる気がした。


『女っ気なし』 Un monde sans femmes (2011)
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ロール・カラミー、コンスタンス・ルソー

『遭難者』Le Naufrage (2009)
監督:ギヨーム・ブラック
出演:ジュリアン・リュカ、ヴァンサン・マケーニュ、アデライード・ルルー
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by kou-mikami | 2014-04-04 12:11 | パリの映画



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