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イングマール・ベルイマン『仮面/ペルソナ』
イングマール・ベルイマンの『仮面/ペルソナ』を観た。
スウェーデンの世界的巨匠による1966年の作品。

後にベルイマンの作品に出演し続けるリヴ・ウルマンが
初めてベルイマンの映画に出演した記念すべき作品でもある。
女性2人しか登場しない設定とシンプルなタイトルに惹かれて鑑賞したが
予想以上に前衛的で難解な映画だった。
そして自分にとっては忘れることのできない映画の一つとなった。

【前衛的な映像で始まる不吉なオープニング】
どこが前衛的だったかといえば、オープニングの映像部分。
映画とは一見関係ないような別のフィルムがいくつも挿入され、
そのどれもが不吉なイメージを喚起させるものばかり。
まるで実験映画を観ているような落ち着かない気分になった。
しかしそれらの映像が後で主人公たちの内面に隠された心理を
表わしていたものだということが分かってくる。

【幾通りにも解釈できる難解なストーリー】
そしてこの映画の難解さはストーリーが常識で見る限り
破綻している点にある。
といってもSFのようなありえない世界が現れるわけでも空想の生き物が
登場するわけでもない。
描かれるのは2人の女性の静かな生活。設定はミニマリズムそのもの。
そのモノクロ映像はどの場面をとってもあまりに美しい。
しかし後半から2人の人格が徐々に曖昧になっていく。
同じ会話が繰り返されたり、アルマがエリザベートとして振舞うようになったりと
途中でどちらがどちらなのか分からなくなる場面があり、
そのためにストーリーの解釈が幾通りにも分かれることになる。
一体今話をしているのはどちらなのだろう?と。
あまりに不可解な展開に、観ていたDVDを留めて巻き戻してしまったほどだ。

現実世界の日常が舞台でありながら、本来はありえない2人の人物の
混同(同化)が起こるところが、この映画を複雑なものにしている。
途中で2人の顔が合わさる合成シーンがあるが、
監督が顔の似ている女優2人を起用したというだけあり
違和感なく溶け合っていく映像が怖いほど見事である。

【主なストーリー(※ネタばれあり)】
物語は舞台女優エリザベートが失語症にかかるところから始まる。
病院で検査を受けても原因が分からず、
治療のために看護婦アルマと2人で海辺の別荘で療養生活を送ることになる。
最初は看護婦と患者という関係だったが、自然の中で生活をしていくうちに
2人は次第に親しい友人のように打ち解けていく。
アルマは黙ったままのエリザベートにいろいろな打ち明け話をするようになるが
その告白をエリザベートが手紙に書いてしまったことをきっかけに
裏切られたと思ったアルマは怒り、2人は反発しあうようになる。
最後には2人の人格が溶け合い、アルマが一人で別荘を出て行く。

【ドッペルゲンガーを描いた物語】
この映画を観終わったとき、私はどちらか1人が存在しないのだと思った。
ヨーロッパの人々が信じているドッペルゲンガー(分身)という現象を
ベルイマンなりの解釈で描いた映画なのではないだろうか。
つまり(おそらく)アルマは実はたった一人で療養生活を送っていて
その間に自分の中にあるもう一人の人格=分身(エリザベート)を見つけたのだと
思った。もしくはその逆のパターンかもしれない。
そう思えば、途中でアルマがエリザベートに成り代わるといった
不可思議な現象も分かる気がするし、
ラストでアルマだけが別荘を出て行くシーンも納得がいく。
またドッペルゲンガーの特徴として興味深いのが「周囲の人物と会話をしない」ということ。
その特徴から考えれば失語症に陥って会話をしなくなったエリザベートが
アルマの分身だったのではないかという推測も成り立つ。
これは1人の人間の中にある2つの人格を描いた映画なのかもしれない。
つまりアルマが内面に隠されていた自分自身を知る物語といえるだろう。

【もう一つの個人的解釈】
しかし数日して、私はもう一つの可能性を考えた。
どちらか1人しか存在しないのではなく
実は2人とも存在し、映画は2人の女性のそれぞれの世界をパラレルに描いているのではないか。
よく観るとラストには別荘を出た後の2人の姿がそれぞれ描かれている。
女優エリザベートが自分の中にある看護婦アルマを発見していく世界と
看護婦アルマが自分の中にある女優エリザベートを発見していく世界。
この映画は2つの世界を同じ場所で同時進行で見せている類まれな映画なのかもしれない。
そういう意味では2人の視点から描いたドッペルゲンガーの映画といえるだろう。

【もう一人の自分への告白】
ドッペルゲンガーと並ぶこの映画の重要なモチーフは「告白」である。
彼女たちはお互いに心の奥にしまいこんでいた告白をするが、
その内容はどちらも子供への罪悪感に関するものだった。
アルマは望まない妊娠による堕胎を経験し、
エリザベートは母性の欠如を指摘され、愛することのできない子供を産む。
不幸な子供の存在が2人の女性の生活に暗い影を落としており、
その心理がオープニングに登場する子供のシーンに表れている。
互いに罪を告白することにより心が開放されるが
2人とも告白を聞かされて強い衝撃を受ける。
それは2人が心の奥では一つであることを意味するのではないか。
そして告白によって互いの心の中が一つの闇で支配されていることを知った2人は
徐々に人格を同化させていったのではないだろうか。

【ベルイマンの影響を受けた映画監督】
この映画は多くの映画監督に大きな影響を与え、
自分の中にある別の人格というテーマで数多くの映画が
撮られている。

レオス・カラックスも影響を受けた監督の一人だろう。
13年ぶりに発表した新作『ホーリー・モーターズ』でも
一人の人間の様々な人格が人生の疲れを通して表現されている。
『仮面/ペルソナ』の冒頭に出てくる子供の姿と
『ホーリー・モーターズ』の冒頭に出てくるカラックス自身が
なんだか似ているように見えたのは自分だけだろうか。

『仮面 / ペルソナ』 "PERSONA"
1966 / スウェーデン
監督:イングマール・ベルイマン
出演:ビビ・アンデショーン、リヴ・ウルマン
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by kou-mikami | 2016-02-05 19:21 | パリの映画
ロウ・イエ『パリ、ただよう花』
ロウ・イエ監督の新作『パリ、ただよう花』を観ました。
この映画を観ようと思ったきっかけは、まずパリが舞台だということ。
そしてパリに住む中国女性が主人公だということでした。
パリでありながらフランスではない世界を見せてくれるのがパリに住む外国人の暮らし。
それはフランス人が知らない「もう一つのフランス」です。
以前パリに暮らしていたこともあり、観光大国フランスの影の部分に興味があったため
懐かしさからこの映画を観たいと思いました。

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映画は異邦人の日常生活というよりは恋愛のみを主軸に進んでいきます。
カメラは主人公の不安定な恋愛をただ執拗に映していく。
恋人に捨てられる場面から始まり、次の恋愛が始まり終わるまでを
カメラはまるで空気のように至近距離から追っていきます。
失恋の悲しみと異邦人であることの疎外感が
辛辣な彼女の顔のアップと殺伐としたパリの風景で上手く表現されています。

【ストーリー】
中国人留学生であるホア(花)は、パリでフランス人の恋人に捨てられる。
失意の中、通りを歩いている時に建設工の男マチューと偶然出会う。
粗野でせっかちな性格のマチューに半ば無理やりに関係を迫られ、
ホアはマチューと付き合うようになる。
しかしインテリを憎む肉体労働者のマチューとは喧嘩ばかり。
うまくはいかず、結局ホアは北京に戻ってかつての同棲相手と婚約し、
通訳の仕事も得て、国際的な活躍の場を与えられる。
しかしその後彼女が向かったのは、パリ郊外の貧しいマチューの故郷だった。

【都会の愛と孤独を描き続けてきたロウ・イエ】
監督は『天安門、恋人たち』(2006)のロウ・イエ。
カンヌ映画祭で上映され過激な性描写で話題になりましたが、
彼は中国当局から5年間映画制作禁止処分を受けます。
その後、同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(2010)をゲリラ撮影で制作しています。
中国・上海出身の監督は今まで一貫として描き続けてきた「都会の愛と孤独」を表現してきました。

そして撮影場所を初めて海外に移し、パリを舞台にした最新作が『パリ、ただよう花』です。
原題は『Love and Bruises』ですが、この邦題で正解です。
花は、主人公の名前でもあり、ただパリを漂っています。
パリは彼女にとって流れるための場所。故郷北京と反対にある世界です。

【理由の分からない恋愛】
知性的なホアが好きになるマチューは典型的な肉体労働者。
『預言者』、『Grand central』のタハール・ラヒムが演じています。
インテリ層にいるホアと建設工マチューとの対比が面白いです。
マチューは根は優しいけど、粗野で軽率な面があり、
賭けとして友人に彼女を売ったり、アフリカ人の妻がいることを隠しています。
またホアの友人である知識階級の中国人たちを憎み罵倒します。
普通であれば、こんな男とはすぐに別れるはずですが、
それでもホアは、マチューとの逢瀬を重ねてしまいます。
その理由が私にはよく分かりませんでしたが、
おそらくそこには心とは別に、ただ肉体を求めるしかない
ホアの悲しい欲望があったのかもしれません。

【パリの野生動物】
『パリ、ただよう花』には、本来セックスとはそういうものではないかと思わせる動物的強さがありました。
もともとセックスは食べることや寝ることと同じ人間にある欲求(本能)の一つ。
それも生きることに直結する大事な欲望です。
これがあったからこそ、人類はここまで地球上で生き延びてこられました。
他の生物にもそれは当てはまりますね。
しかし現代の都会の中でその欲望は抑制されています。
でもホアはその抑制された都市に不満をいだいて漂いながらセックスを求めている。
その姿はまるでパリを徘徊する野生動物のようでもあります。
これは本来の生物に帰ろうとする人間の物語とも言えます。

【映像について】
まるでドキュメンタリーのような映像は荒々しく生々しい。
特にホアとマチューが最初に出会った日の二人のやりとりはリアル。
夜に建設現場で無理やりホアをレイプしてしまうシーンの長回しは
その場に居合わせたかのような気まずい臨場感がありました。
ホアの顔のアップが多かったのも印象的で、監督は言葉ではなく
彼女の表情に全てを語らせたかったのかもしれません。

【彼女は人生に何を求めているのか】
彼女は寒々しいパリの中でただセックスを求めているように思えます。
相手を愛しているのでもなく、寂しいのでもなく、ただ性交を重ねる。
しかしそれはどこにも辿り着かない浮遊した空しい生活です。
恋愛に疲れた彼女はようやく北京に戻ってかつての同棲相手と婚約をしますが、
将来を決めた彼女の顔には絶望しかありません。
その表情は自由を求める野生動物としてのホアの本音を浮き彫りにします。
結婚には安定と平和があるが、そこに恋愛や刺激はない。
彼女の絶望は、彼女が安定よりも刺激を大事にしていることを物語っています。
簡単に言ってしまえば、おそらく彼女は自由を求めているのでしょう。
しかしそれはいつも悲しみに変わり、決して手に入らないのです。

生きることは、セックスそのもの。しかしそこには何もない。
どこにもたどりつかない彼女の生き方を見ているとそう思えてしまう。

『パリ、ただよう花』"Love and Bruises"(2013)
監督:ロウ・イエ
出演:コリーヌ・ヤン、タハール・ラヒム
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by kou-mikami | 2014-01-18 10:35 | パリの映画
パリの映画(3)
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パリの夏の夜といえば「野外上映会」です。

野外での映画鑑賞はパリの夏の風物詩となっています。
夜空の下、自然体で映画を見る。まさにフランスらしいイベントです。

場所はパリ市内の公園や庭園、教会前広場など。
往年の名画から、ヌーヴェルヴァーグ、最新作まで国を問わず様々な映画の
プログラムが組まれています。運営スタッフたちも楽しそうです。

去年見た野外映画を思い出してみると・・
サントゥスタッシュ教会前広場で「ムーラン・ルージュ」
シャンゼリゼ庭園で「勝手にしやがれ」
ヴィレット公園で「誰も知らない」

ただ夜は意外と寒いので、マフラーや長袖が必要かもしれません。
後半は少し震えながら見てましたので。じっとしていると寒いんですね。
主人公の過酷な人生と自分の身体の震えが一体になったことを
今でも覚えています。

それと今まで無料でしたが、今年は有料のところもあるようで。
だんだんせちがらい世の中になっていくようです。
ユーロ高の中、映画とワインだけは安いままでいてほしいものです。

*写真は去年のヴィレット公園での上映会。

→その他のパリの写真
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by kou-mikami | 2008-08-16 21:03 | パリの映画



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