ミシェル・ウエルベックの『服従』を読んだ。
イスラーム同胞党というムスリムの政権が実権を握った近未来のフランスが舞台。 主人公はソルボンヌ大学で教鞭をとる中年教授で、19世紀のデカダンス作家ユイスマンスを専門としている。 文学に精通しながら孤独な性生活を送る彼が最終的にイスラム教に改宗するまでを描いた物語である。 フランス国内でキリスト教の人口よりイスラム教が増えるという大きな出来事を契機に価値観が根底から崩される日常が淡々と描かれ、見えない透明な影が迫ってくるようで怖い。 現代政治を背景にしながらも、描かれるのは個人の内省的な世界。文学教授ならではの作家愛や、過去と未来に関する考察、宇宙の成り立ちなど知的な会話が満載のフランスインテリの世界が繰り広げられる。 日常の中に入り込んでくるイスラム教によって、彼の世界観は徐々に変えられていく。 そしてもはやキリスト教では自分の孤独は救われないことに気づく。 ムスリムの教授たちと交わされる会話の中で、宇宙に関する考察が出てくるのが興味深い。 わたしが言いたかったのは、宇宙は確実に、インテリジェンス・デザインの徴を帯びているということで、それは巨大な知性によって考えられたプロジェクトの実現なのです。 宇宙は神が作ったものであり、知的で合理的なデザインによるものだということ。 そこに服従することで幸福が得られるというものだ。 人間が世界の中心ではなく、宇宙というデザインのほんの一部に過ぎないということだろうか。 そう考えると、イスラム教は非常に科学的な宗教のような気がしてくる。 ミシェル・ウエルベックの『服従』は、テロリストによるシャルリー・エブド社襲撃事件の当日に出版されたことで話題になり、また「イスラム教とフランス」という内容の現代性からフランス国内で大きな議論の的となった。日本でもメディアで取り上げられたが、思ったほど過激な内容ではなかったように思える。イスラム政権となった近未来フランス社会はたしかに刺激的な舞台だが、主人公の周りにあるのは恐ろしいほど静かな世界だ。それは一人の中年男の孤独な愛の物語であり、イスラム教という新しい愛の形を受け入れる時間である。
by kou-mikami
| 2015-12-11 08:15
| パリの小説
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