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クレール・ドゥニ『ハイ・ライフ』
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"HIGHLIFE"(写真:Alcatraz Films)

クレール・ドゥニが初めて挑んだSF
映画には様々な状況設定があるが、その中でも多いのは銀河を探索する宇宙船内というシチュエーションかもしれない。遠い銀河への有人探査はまだ現実になっておらず、そこには未来への希望と無限の可能性が満ちている。しかしクレール・ドゥニ監督の新作『ハイ・ライフ』にそのような希望は全く見られない。宇宙船に乗っているのは囚人であり、彼らの向かう先は全てを飲み込むブラックホールだからだ。そして船内では囚人たちを使ったある実験が行われていた。

『ハイ・ライフ』は『ショコラ』『パリ、18区、夜』『ネネットとボニ』などの代表作で知られるフランスの監督クレール・ドゥニが初めて挑んだSF映画。囚人モンクをイギリスの俳優ロバート・パティンソンが演じ、囚人たちを管理する科学者をフランスの女優ジュリエット・ビノシュが演じている。他にも『サスペリア』に出演したミア・ゴスなどの才能ある若い女優が共演している。ジュリエット・ビノシュが体を張って挑んだ妖艶で衝撃的なシーンも各メディアで話題になった。


欲望が渦巻く宇宙船

舞台は近未来の宇宙。地球を離れて宇宙を突き進む一隻の宇宙船が物語の舞台。乗っているのは死刑や終身刑を言い渡された囚人たち。彼らは刑の免除と引き換えにある危険な実験の被験者として宇宙探査に参加していた。それは地球に帰還する見込みのない片道の旅。いわくつきの囚人たちが集まった閉鎖的な船内では争いが耐えず日常化していた。鬱屈した欲望が渦巻く宇宙船だが、そこは同乗する一人の科学者によって徹底的な管理がなされている。セックスは禁止され、歯向かった者は罰せられる。その代わりに性欲処理のためのマシンが設置されており、船員一人ひとりが自分に適した方法で性欲を満たしていた。主人公モンクは以前はそれを使って性欲を満たしていたが、今は修道士のような禁欲生活を行なっている。しかしある実験のために科学者はモンクを利用し、それをきっかけに船内の緊張はさらに高まっていく。


映画全体に満ちる静けさと親密さ

あらすじだけ読むと、よくあるシチュエーションスリラーを想像するが、映画自体はむしろ穏やかで芸術性を感じる。船内で栽培される植物をクローズアップした美しいシーンから始まり、船内で育てられる赤ん坊と父親の家庭的な生活が前半に描かれる。映画全体には静けさと親密さが満ち、それが逆にこれから起こる悲劇を想像させる。『ハイ・ライフ』のようなSF映画は今まで観たことがなかった。フランスの女性監督、そしてクレール・ドゥニだからこそ作れた繊細で壮大な世界だろう。あえて言うならば『エヴォリューション』のような美しい悪夢と『2001年宇宙の旅』のような普遍的な深淵さを感じさせる。設定としてはSFによくあるものかもしれないが、そのテーマはシンプルでいて簡単に答えがでない。


欲望を制御した管理社会に生命はあるか

映画を観て記憶に残ったのは液体の描写。水、血液、精液、母乳。全ては人類の生命に必要なもの。最初に出てきた人工植物のシーンは瑞々しく美しく、実験のために採取される囚人たちの精液はどこまでも無機的だ。争いによって吹き出る血液は死を連想させ、妊娠した囚人の胸からあふれ出る母乳は豊かな生を連想させる。宇宙船自体が一つの液体なのかもしれない。それは地球から宇宙に送られた希望なのだろう。

またこの映画の特徴は、謎を全て解明せず、人間の愛憎が引き起こす行動の描写に時間をかけたことだろう。宇宙船での実験やミッションの目的はあくまで物語の背景であり、その密室で暮らす人間たちの欲望と葛藤、そして絶望の中で見出す希望がこの映画の肝となる。禁欲された社会だからこそ、そこに人間の欲望が垣間見える。そして欲望を制御した管理社会では果たして生命の維持はできるのだろうか。我々が行き着く先の生命について問いかける、難解で見ごたえのあるSF

人類の美しさを見出した圧倒的なラスト

ラストシーンの美しさと壮大さは、数あるSF映画の中でも特に群を抜いている。未知の世界への覚悟、それを可能にしているのはやはり愛だろう。絶望を感じるのは人間だけだが、その中に希望を見つけるのも人間だけ。ブラックホールに向かう宇宙船の中で人はどんな生き方をすればいいのか。圧倒的な絶望の中で希望を見出すシーンがどこまでも美しい。

この映画はSFだが、欲望の映画であり、愛の映画でもある。

“HIGH LIFE”2018年)

監督・脚本:クレール・ドゥニ

出演:ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、アンドレ・ベンジャミン、ミア・ゴス


by kou-mikami | 2019-03-13 15:23 | フランス映画
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