これ以上ないシンプルなタイトルの映画がある。 『男と女』。1966年のカンヌ映画祭でグランプリを獲得し、無名だったクロード・ルルーシュ監督(Claude Lelouch)の名を世界的に知らしめた名作であり、フランスの恋愛映画としてあまりに有名な作品だ。主演はジャン・ルイ・トランティニヤン( Jean-Louis Trintignant)とアヌーク・エーメ(Anouk Aimée)で、二人は当時から人気の俳優だった。しかし、なによりもこの映画を有名にしたのは映画に挿入されたフランシス・レイ(Francis Lai)の曲だろう。「ダバダバダ…(Daba Daba Dab)」という耳に非常に残るスキャット(ジャズなどで使われる意味のない言葉)が印象的な美しい曲で、ピエール・バルー(Pierre Barouh)とニコール・クロアジール(Nicole Croisille)が歌っている。しかし、映画がコンテンツとして大量消費される社会になった現代では、この映画を知る人も減ってきたのかもしれない。フランス映画は日本で観られる映画の主流から外れ、大量の予算と広告費をかけたハリウッド映画が幅を利かしている。しかし2019年にルルーシュ監督が同じ俳優を使って53年後の物語『男と女Ⅲ 人生最良の日々』を完成させたことは往年のフランス映画ファンを喚起させたに違いない。 だからこそ、今再び、53年前に作られた『男と女』を観ることは意義のあることだと個人的には感じている。 男ジャン・ルイはスピード狂のレーサー。人生を生き急ぐかのようにラリーに取り憑かれている。女アンヌは映画制作の記録係。スタントマンの夫とともに好きな映画を仕事にしていた。パリに住む男と女は互いにパートナーを不幸な形で失った後、子供を預けているドーヴィルの寄宿舎でたまたま出会い、物語が始まる。ちなみに、フランス・ノルマンディーにある高級保養地ドーヴィルはこの映画の公開後に一躍有名になった。 改めて見直して印象的だったのは、2人が自分たちの子供と接するオープニングのシーン。アンヌは海辺で娘におとぎ話を語りかけ、ジャン・ルイはふざけながら息子に車の運転をさせる。ジャン・ルイと息子の会話はなんとなくゴダールの映画を彷彿とさせる。主役は男と女なので子供の登場シーンは少ないが、その分、子供たちが自由に会話をしたり浜辺を走り回るシーンは記憶に残る。またそれは大人中心の社会であるフランスを反映している部分もあるだろう。 2人が出会ってからの物語はジャン・ルイのレースシーンや寄宿舎のあるドーヴィルでのランデブーを経て、二人が最後に出会うパリでクライマックスを迎える。これからの2人の行く末を観客に想像させるところで映画は不意に終わる。 『男と女』が「フランス恋愛映画の金字塔」や「永遠の名画」などと言われるのは、おそらくそれがリアリティを欠いた物語だからだろう(リアリティがあるのは本当のレースを撮影したシーンくらいだ)。それでいながらタイトルは"Un homme et une famme"(ある男とある女)。その普遍的な言葉が観る人を惹きつける。また低予算で作られた作風も今となっては貴重なもので、限られた制約の中で作られた本作は、偶然要素が多く、それが逆に魅力になっている(予想外の雨のシーンなど。監督は撮影時に雨が降っていたから雨のシーンにしたと語っている)。そして当時の不鮮明な粗い画質と映画の半分を占めるモノクロ映像が、現在では再現できない謎に包まれた美しさを保ち、まるで琥珀のような輝きを持っている。 自由奔放なジャン・ルイの無邪気な笑顔と美しいアンヌの控えめで優しい笑みは観た後も消えることはない。その後、20年を経て、2人の再会を描いた『男と女Ⅱ』が1986年に公開され、2019年にはエピローグとして『男と女Ⅲ 人生最良の日々』が公開された。再会、別れ、再会。昔から繰り返しされる男女の普遍的な物語。何度でも観たくなる男女の出会いがここにある。 『男と女』"Un homme et une famme"
公開:1966年 監督:クロード・ルルーシュ(Claude Lelouch) キャスト:ジャン・ルイ・トランティニヤン( Jean-Louis Trintignant)、アヌーク・エーメ(Anouk Aimée) 音楽:フランシス・レイ(Francis Lai)
by kou-mikami
| 2019-06-24 15:50
| フランス映画
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